Vol 06

    沖縄観光ブランドを地場産業の振興に活かせ!

    沖縄観光業界の発展による地域産業の好循環

    沖縄に訪れた観光客が県内で飲食やお土産購入、宿泊、観光、交通機関利用などの消費活動を行うことで、直接関わった店舗や事業者だけでなく関連のあるさまざまな産業も活性化されます。それに伴い売上が増加し雇用が創出されるなど、沖縄の観光業は間接的にあらゆる産業に関わり、沖縄経済の大いなる発展に寄与しているのです。

    また、観光産業の発展とともにお土産や特産品などの商品開発も進んでいますが、最近ではこれまで注目されていなかった農作物や廃棄されていた副産物を利用するなど多くの事業者が地産地消を推進し、持続可能な観光地域づくりに貢献しています。

    今回は、地域の特産品を活かしたものづくり産業を通して実現している、県産品の需要拡大や雇用拡大など沖縄の観光を軸とした経済循環をご紹介します。

    観光産業がもたらす波及効果

    沖縄県の「令和3年度観光統計実態調査」によると、令和3年度に沖縄に訪れた観光客数は327万4,300人、観光客一人当たりの県内消費額は91,555円です。その内訳は、ホテルなどの宿泊費、レンタカーやタクシーなどの県内移動の交通費、お土産や買い物の費用、飲食費、アクティビティや観光施設の入場費と多岐にわたり、各業種に売上や雇用を生み出しています。その中でもお土産などの買い物費用と飲食費は合わせて38%と割合が大きいうえに一次産業や二次産業との関りも深く、地産地消に大きく貢献しています。

    現在沖縄では農作物を加工したスイーツやお土産品、沖縄の植物を使用した化粧品などの商品開発が盛んに行われています。これまでの特産品に新しい価値が見いだされると、原料の生産や製造業の活性化につながります。また、パイナップルの葉やサトウキビの搾りかすなど製造過程で産出される廃棄物を再利用する試みも増え、これらは環境問題への取り組みとして評価も高く、注目されています。

    「令和元年度沖縄県観光統計要覧」の調査では、観光客が沖縄県内で直接消費した金額は7,312億円で、関連のある産業の売上増加などの一次間接波及効果は2,844億円。さらに雇用者所得が増加したことで消費活動が活発化し、県内産業の生産増加が見込まれた二次間接波及効果は1,546億円。また、直接効果、一次・二次間接波及効果により創出された雇用効果は153,574人という結果が出ています。

    このように、観光産業は沖縄県全体の経済循環に大きく関与しているのです。

    観光で頑張る人インタビュー
    金武町で鍾乳洞や特産品の田芋を活用して事業展開をしている有限会社インターリンク沖縄の豊川あさみ社長に、地域活性ビジネスについての考えを伺いました。

    有限会社インターリンク沖縄 代表取締役社長 豊川あさみさん

    事業も雇用も全て地元での「リンク」にこだわった経営

    Q.インターリンク沖縄さんの事業展開に共通している理念は何ですか?

    私自身が金武町で生まれ育ったので故郷に少しでも恩返しをしたいという気持ちから、常に金武町からビジネスを発信しています。金武鍾乳洞で泡盛を熟成させる古酒蔵事業からはじまり、現在は鍾乳洞貯蔵熟成豆腐餻の食品事業、金武町の田芋を使ったスイーツ事業とカフェレストラン事業、金武湾の素晴らしい眺望を活かしたホテルステイ事業を展開しています。古酒蔵事業を開始した当時は、鍾乳洞も田芋も観光資源として全く活用されていませんでした。しかし、荒れ果てている鍾乳洞を整備し古酒蔵として運用すると、たちまち話題になり口コミで全国から観光客が訪れるようになったのです。これを機に「もっと金武町の資源を活かして町を活性化したい!」という思いが芽生え、田芋を使った事業にも取り組むことにしました。『伝統を守りながら、創意工夫で新たなチャレンジを』という理念のもと、地域の魅力を最大限に活かすための事業展開を行っています。

    Q.持続可能な経営を行うための取り組みをお教えください。

    カフェレストラン事業は、金武町は田芋が名産品にもかかわらず、田芋のお土産品も田芋料理を食べるお店もなかったことに課題を感じて立ち上げました。しかし、「町を活性化させるということは、町に暮らす人の生活を守ること」でもあると考える弊社にとって、飲食店事業は営業時間がネックでした。夜まで営業すると従業員の家族や子どもと過ごす時間が削られ、仕事と家庭のより良い両立が難しくなってしまいます。そこで、レストランと並行してスイーツやお土産品などの物販事業も行うことで、16時までの営業時間でも経営が成り立つビジネスモデルを確立させました。おかげで、私の息子夫婦をはじめ小さなお子さんがいる従業員はみんな、保育園のお迎えが出来る時間に帰宅しています。地域活性とは、地元の資源を使い、地元で働き、地元で豊かに暮らす、というサイクルを作ること。そのための職場環境を提供して雇用を守ることが、安定した経営につながると実感しています。

    Q.沖縄の経済をさらに活性化するためにはどうしたらよいでしょうか?

    まずは市町村単位で活性化すること。県内の市町村がそれぞれ活性化すれば、おのずと県全体の経済が盛り上がります。そして市町村の活性化は一次産業、二次産業、三次産業がそれぞれ地元の事業者でリンクして成り立つのが理想形だと思います。インターリンク沖縄という社名にも「つなげる、結び合わせる」という意味を込めました。金武町だけでなく、沖縄の各地には宝物のような資源がたくさん残っているはずです。それらを掘り起こしながら、地域に貢献し次世代につなげられるような事業を続けたいと考えています。

    観光で頑張る人インタビュー
    土産品として人気のオリジナルスキンケアブランド「SuiSavon -首里石鹸-」を展開する株式会社コーカス。「ためになる。をする。」というビジョンのもと、沖縄のより良い未来のために、創意工夫ある取り組みを行っています。

    株式会社コーカス 代表取締役 緒方教介さん

    首里石鹸のブランド力を活かした経済波及効果

    Q.観光土産品としてスキンケアブランドを展開する意義は何ですか?

    オリジナルスキンケアブランド「SuiSavon -首里石鹸-」を立ち上げてから6年ですが、現在は弊社のメイン事業となるほどに成長しました。観光で訪れるお客様だけでなく、通販で購入してくれる県外リピータ―さんや店舗で購入してくれる県内ユーザーも増え、お土産の枠を超えたスキンケアブランドとして認知していただけているような実感があります。首里石鹸がここまで応援していただけているのは、沖縄の魅力的な素材と接客力のおかげかな、と思っています。紫外線の強い過酷な環境下で育った沖縄の植物には、他の地域ではなかなか得られない美容成分がギュッと詰まっています。県産の月桃やアロエ、ゴーヤー、シークヮーサーなどから抽出した成分をたっぷり使用し、香りもよく肌にもよい影響をもたらす上質な製品を作ることにこだわっています。品質の良い製品は口コミやリピート購入につながるだけでなく、沖縄の植物が化粧品の原料としても魅力的だということのアピールにもなります。例えば、テリハボクから抽出するタマヌオイルという成分は世界中から注目されているのですが、沖縄には独自の採取方法と抽出の技術を持つ人がいるので上質なタマヌオイルが採れるということはあまり知られていません。また、私たちの製品に使用されるアロエは宮古島のアロエ農家さんが育てた上質なアロエを使用しています。このような沖縄の植物や果物、人の想いが詰まった製品を作り、製品作りの背景と沖縄らしい接客力(ソフトサービス)の価値を高め、沖縄の素晴らしさを伝えることが私たちの使命だと考えています。

    Q.資源の再活用にも取り組んでいますか?

    現在、首里にある瑞泉酒造さんの泡盛の酒粕を使った化粧品を開発中で、2023年中に「淡雫×泡盛酒かすシリーズ」として発売を開始する予定です。一番の目的はやはり、化粧品の原料という切り口で泡盛の魅力を今までとは違う客層にアピールすることです。米と麹のみでできているシンプルな泡盛から生まれる酒粕に含まれる美容成分を、泡盛を飲んだことのない人たちにも興味を持ってもらえるようなストーリーで伝えたいと考えています。微力ではありますが沖縄が生んだ泡盛文化活性化のお手伝いができれば嬉しいという思いで取り組んでいます。

    Q.首里石鹸がもたらす県内産業への良い影響はありましたか?

    多くの観光客が首里石鹸を購入し全国で認知されたことで、県産原料の生産者に県外の企業から問い合わせや発注が来たと聞きます。また、県外の方には沖縄を身近に感じてもらえること、県内の方には沖縄の原料は価値があるものだ!と思っていただけるきっかけになれたように思います。首里石鹼の販売力がさらに高まれば、県内に製品を作る需要が生まれ、将来県内でも製造する場所や人が活性化する可能性が出てきます。そうなれば、化粧品の原料生産と製造が沖縄の新しい地場産業として発展する可能性も十分にあるのではないかと思います。

    株式会社コーカス 取締役 屋宜絵理香さん

    沖縄の未来のため、子育て世代や女性の働き方に選択肢を創出

    Q.これまでどのような職場環境づくりを行ってきましたか?

    弊社はコールセンター事業からスタートした会社です。女性が多い職場のため、出産後に復帰した社員の子どもの急な用事による欠勤や早退にも対応しなければならない、という課題を抱えていました。コールセンターは取引先との契約があるため業務量を変更することができず、1人が休めば誰かが穴埋めをしなければなりません。首里石鹸の物販事業は、産休から復職する従業員の働く場所、働き方を選択できる場所として土産品店舗を作ることを目的に立ち上げました。自社製品のみを販売する店舗なら、クライアントに迷惑をかけずに社員の都合に合わせて営業時間や営業日を融通することができるという理由です。店舗スタート時は当初の役割を果たしてくれていましたが、首里石鹸の事業が拡大するにつれて当初の目的は薄れていき、今は来店するお客様にご迷惑をかけないようにしっかり雇用を確保するようになりました。当初想定した役割と現在は異なりますが「従業員が働きやすく、働きがいを持てるような会社にしたい」という想いは変わりなく、これも職場づくりの一環だと思っています。現在では、コールセンター事業部から出産を機に融通のきく物販事業への異動を希望する社員も居て、そこは当初の役割を担ってくれています。また、出産後もコールセンター事業部での勤務を希望する社員をサポートするために、本社内に保育園を開設し保育事業もはじめました。沖縄の最大の魅力である観光・素材・人に光を当て、働きがいのある職場づくりと雇用の創出をこれからも行っていきたいです。

    Q.現在の取り組みや今後の目標を教えてください。

    私たちが目指しているのは「ひとりひとりが豊かな生活と学びを選択できる企業」です。十分な給与、働く場所や役割の選択肢、学べる職場、この3つを社員に提供することを「善」とした事業運営を行っています。給与は一般的な業界平均の120%をベースに、毎年3%アップを目標としています。首里石鹼は現在東京、大阪、名古屋など県外に5店舗ありますが、2023年度中にニューヨークなど海外にも店舗をつくり、県外だけでなく国外での勤務も可能にしたいと考えています。また、コールセンター事業や店舗販売、商品開発など希望する職種に挑戦できる環境も提供していきたい。事業拡大を目的としているのではなく、「ひとりひとりが豊かな生活と学びを選択できる企業」になるための手段として事業を推進しているのが現状です。今後も、全てが社員のため、沖縄の未来のため、につながる事業を展開し続けます。その未来が、沖縄の子ども達にとってイキイキと夢を持って働く環境の「ためになる。をする。」に繋がることを願っています。