Vol 02

    自然や文化の継承で観光産業の発展に!

    持続可能な観光を考えよう

    沖縄県の豊かな亜熱帯・海洋性の自然環境や歴史的風土と伝統に根ざした個性豊かな文化は、国内外の人々が求める多様な観光ニーズに応えることができる大きな魅力です。
    そのため、県民、観光客、観光事業者が一体となって、沖縄の自然、歴史、文化を尊重し、環境を大切にしながら観光産業の成長と維持を目指すことが、沖縄観光・経済を最適に活性化させていくことに繋がっていきます。
    今回の「沖縄観光みらい新聞」では、「地域の自然環境(環境)を守りながら、観光産業(経済)を活性化させ、住民の暮らし(社会)を良くしていく」サステナブルツーリズム(持続可能な観光)を考えながら、沖縄観光をより良いものにしようと取り組む人々へのインタビューを通して、観光産業の魅力に迫ります。

    「持続可能な観光地づくり」は世界の潮流に

    沖縄県は、地域社会・環境を守ることで持続可能な観光を作り出す、という点に力を入れています。県が令和4年度に策定した「第6次沖縄県観光振興基本計画」で、観光産業は県のリーディング産業として県民の雇用や暮らしを支えるとともに、沖縄経済における重要な推進力として位置付けられています。

    また、社会的側面からは、地域住民の文化の継承や生活をより良くすることに貢献する役割を担っていることが記されています。さらに、環境的側面からは、沖縄の自然環境を保全・再生に取り組み、次世代に受け継いでいくことの必要性を謳っています。

    持続可能な観光地づくりに取り組むことは、すでに世界的な潮流となっています。国連世界観光機関(UNWTO)は、「責任ある、持続可能で、誰もが参加できる観光を推進する立場から、観光はすべてのSDGs目標に対して貢献する力がある」との考え方を明確にしています。

    海外の観光地の例を挙げると、米国ハワイ州では「マラマハワイ(ハワイを思いやる心)」のスローガンのもと、何百年も先の未来を見据えながら、ハワイが持つ素晴らしい伝統文化や美しい自然環境を守っていくために、特別プログラムを2014年に定めました。その中で「クリーンエネルギーへの転換」「固形廃棄物の削減」「地元産の食材供給」など6つのゴールを掲げ、官民一体で経済、社会、環境の側面から持続可能な社会を目指しています。

    また、観光の目玉として、マウンテンゴリラに出会えるトレッキングツアーに力を入れる東アフリカのルワンダでは、自然環境を守るために観光産業のターゲット層を「エコ意識の高いハイエンド観光客」に設定しています。宿泊料やツアー参加費をあえて高額にすることで、オーバーツーリズムを回避しながら、自然や文化の保護に取り組んだ結果、付加価値の高い持続可能な観光メニューを提供しています。

    観光立県である沖縄県としても、社会・経済・環境の三側面において調和のとれた沖縄観光の実現のため、「持続可能な観光地づくりの追求」に取り組んでいるところです。

    沖縄の自然環境を大切にして観光振興につなげようという考え方は“素晴らしい自然こそ、沖縄が国内外にアピールできる魅力なのだ”という意思の表れであるとも言えます。それと同時に“素敵な観光地であり続けるためにも、自然環境を守ろう”という県民や観光客への動機付けにもなり、自然が守られていくことで観光地としての魅力がさらに高まるという好循環が生まれることにもなります。

    このような考え方のもと、すでに沖縄県内でも取り組みが始まっています。沖縄県は県知事からの認証を受けた観光事業者らと「保全利用協定」を締結することで、自然環境を「保全」しながら、観光産業として「利用」するというバランスを取りながら次世代に豊かな自然や文化を残そうとしています。具体的には、マングローブ林を保護するために遊覧船の速度や運行回数の規制や、サンゴを守るためにシュノーケリング時などではサンゴの上を通過しないようにすることなどです。

    そうすることによって実現する持続可能な観光は、実際に旅行者の側からも求められています。民間の旅行会社が日本を含めた世界32か国約3万人に行った調査によると、世界の旅行者の81%の人が「サステナブル(持続可能)な旅は自身にとって重要である」と回答しています。自然環境の保護を通して持続可能な観光に取り組むことは、旅行者のニーズを満たすことにもなるのです。

    沖縄県内には、自然環境の保護や持続可能な観光に取り組むみなさんがたくさんいます。それぞれの事業者にインタビューしました。

    アクティビティが自然の魅力に気づくきっかけに

    やんばるの森など本島各地で、楽しみながら自然を体感できるアドベンチャーツアーを展開する「どきどきヤンバルンチャー」のやんばるエリアマネージャー・翁長一平さん

    Q.観光客の方に対しても、ツアーなどを通して沖縄の自然に触れる機会を多く提供しているかと思います。

    観光などで訪れたみなさんが、沖縄の自然の豊かさに気付く入り口になれる仕事だと思います。最初は自然ではなくアクティビティに興味を持ってツアーに参加した人が、そこで初めて沖縄の自然の素晴らしさに気づくこともあります。そこで『自然を大切にしよう』という意識が芽生えるかもしれないですね

    Q.修学旅行生も受け入れているようですが、どのような体験ができるのですか?

    東村では、ツルヒヨドリという外来植物が問題になっているのですが、その除去を修学旅行生にも体験してもらっています。根っこごと取って燃やすという入念な除去をしないといけないほど、繁殖力の強い植物です。やんばるの森の豊かさだけではなく、外来植物が入ってきて在来種がダメージを受けているという課題も含めて学ぶ機会とすることで、自然保護への意識を育てるきっかけ作りになればと考えております。

    Q.自然をテーマにした観光事業者としての立場で、自然保護の教育活動にも力を入れていらっしゃいますね。

    小中学校での出前授業を行っています。私たちの事業内容を紹介することで、子どもたちにも沖縄の自然の大切さや素晴らしさを感じてもらい、また、観光業は地域経済にもしっかり貢献していけること、観光業は、自然を“使う責任、守る責任”がある、という考えを授業を通して子どもたちに発信しています

    観光地として「売るもの」が無くなってしまう前に

    サンゴに優しい日焼け止め」を開発・販売するジーエルイー合同会社の代表でもあり、地域と協働して持続可能なゴミ拾い活動の仕組みを作っている株式会社マナティの代表でもある社会起業家の金城由希乃さん

    Q.「サンゴに優しい日焼け止め」について聞かせてください。

    名前の通り、サンゴに優しい成分でできている日焼け止めです。実はこの名前がすごく大事な点です。『サンゴに優しい日焼け止め』を使うことで、周りにも『サンゴに配慮しながら海で遊べる選択肢があるよ』という発信ができます

    Q.「環境を守りたい」という気持ちをもともと持ち続けていたんですか?

    沖縄の海って、裏庭みたいな感覚ないですか?私にとってはすごく近い存在です。好きとか嫌いとか以前に、裏庭が荒らされていたら嫌じゃないですか。そういう感覚です。環境は、私たちが生きていく上での土台だと思っています

    Q.環境保護がしっかり取り組まれることで観光の活性化にもつながる、という考えについてはどのように受け止めていますか?

    環境を守らないで、観光だけ進めたら『売るもの』がなくなってしまいますよね。沖縄の場合は海やサンゴだと思います。『売るもの』が無くなる前にどうにかしないといけません。ルールを決めて少しでも保全しないと、観光自体が成り立たなくなります。

    観光業こそ“今”に敏感で進化する業界

    社を上げてさまざまなSDGsに取り組んでいるホテル「ハイアットリージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄」人事部の松本彩さん

    Q.多彩なSDGsの取り組みをされていますが、どのようなものがありますか?

    一つには、恩納村の『ハニー&コーラル・プロジェクト』に参加しています。収穫後で空いた畑に、農家さんがハチミツのもとになるような植物を植えることで、赤土流出を防いでサンゴを守ると共に、生産された恩納村産ハチミツを使ってオリジナルのスイーツやドリンクを提供しています

    Q.SDGsに積極的に取り組むことで、沖縄の未来に対してどのような意味があると考えていますか。

    沖縄は地域のつながりが強くて、多様性を受け入れるチャンプルー文化が根付いているので、SDGsが進みやすい土地柄なのかなと思っています。将来的には『沖縄はサステナブルツーリズム(持続可能な観光)が進んでいるよね』と世界から認識されるような場所になっていければ、沖縄の観光業の未来は明るいのではないかと思っています

    Q.コロナ禍で大きな打撃を受けたのがホテル業界でもありました。

    たくさんのお客様に来て頂いて、コロナ前の状況に戻りつつあることを肌で感じています。観光業は社会情勢の影響を受けやすいということが、今回のコロナ禍であらわになってしまったわけです。一方、観光業や宿泊業は古来からずっと続いてきて必要とされた産業で、この仕事がなくなることはないと思います。むしろ、社会情勢に影響されやすいからこそ、形を変えて進化し続けている業界です。変化のスピードは激しいですけど、やりがいや成長を得ることができます

    Q.SDGsへの取り組みとして、外国籍の方の雇用も促進しているようですね。

    当ホテルはインターナショナルなホテルで、職場環境も多様性にあふれています。国籍、宗教、言語の違う方々と一緒に働いていますし、同僚の経歴もさまざまです。このような職場環境に刺激ややりがいを感じています。社会の変化と共に観光業やホテル業の在り方もどんどん変わっていく中で、いろんな価値観があるということを内側からも感じられるというのは、この仕事の魅力だと思います