Vol 09

    DXで広がる沖縄観光の未来

    押し寄せる技術革新の波は観光DXにも!

    DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、ICTやIoT、AIなどの技術を活用することで業務を改善したり、新しいビジネスモデルを作り出すこと。その活用により、沖縄県の観光産業でも観光客のみなさんがよりスムーズに観光を楽しめたり、観光産業で働く方々のよりよいサービスの提供が可能となってきています。観光の「DX化」はどのような恩恵をもたらしているのでしょうか。今回の「沖縄観光みらい新聞」では、実際の観光産業の現場で働くみなさんに、観光の「DX化」がどのような恩恵をもたらしたのか、尋ねてみました!

    バスの経路検索に「オープンデータ」を活用

    沖縄県では、令和4年以降10年間の観光振興の方向性を位置付ける「第6次沖縄観光振興基本計画」においても、前述したようなデジタル技術の活用で、観光客の方々がより深く沖縄独自の文化や自然を体験できるような観光コンテンツの創出や、観光施設などにおけるコンタクトレス決済の普及、観光産業とテクノロジー分野・イノベーション分野が積極的に連携した事業創出などを掲げており、より利便性を高めた沖縄観光の実現を目指しています。

    県内の路線バス、船舶、モノレールの路線や時刻表などの情報を誰でも活用することができるようにオープンデータ化することにより、公共交通をより便利に使うことができる沖縄県独自のプラットフォーム「OTTOP」が稼働しています。

    「OTTOP」の情報は世界中でダウンロードされており、GoogleマップやNAVITIME、ジョルダンなど国内外の経路検索サービス上で沖縄県内の公共交通情報を取得しやすくなり、バスをはじめとした公共交通路線の検索が簡単にできるようになりました。 (https://www.ottop.databed.org/

    Googleマップを例に挙げると、平成31年1月の段階では経路検索できる沖縄県内の交通関係事業者は全49事業者中4事業者しかありませんでしたが、令和2年12月になると全55事業者で経路検索ができるようになりました。

    このように経路検索がより便利になったことは、観光客のみならず、県民にとっても普段の通勤通学や外出時にも役立ちます。また、このようなデータを活用することで、街中の各種ディスプレイでの情報表示や、市民ワークショップでの活用など、多くの場面での応用が期待されています。

    デジタル技術の活用は、公共交通だけではありません。ICTなどを活用することで、観光事業者の生産性向上にもつながっています。顧客情報や商品情報をデータベース化して管理・分析することで、よりよい商品やサービスを生み出すことができた事業者もいます。

    IT業界のスキルを活かして、お客様のニーズを把握

    観光で頑張る人インタビュー
    糸満市の琉球ガラス村を運営するRGC株式会社では、デジタルツールの活用によって在庫や売り上げの管理、社員同士のコミュニケーションがよりスムーズにできるようになり、よりよいサービスの提供に結び付きました。IT業界から転職した當眞大地さんと、商品管理を担当する里佑馬さんにお話を聞きました。

    営業本部3課 當眞大地さん

    Q.IT関係のお仕事から琉球ガラスのお仕事に移ったきっかけは何ですか?

    『沖縄に根付いたオリジナルサービスをしたい』と転職を考えている時に、たまたま弊社のグループ会社の方に誘って頂きました。もともと琉球ガラスに特別関心が高いというわけではなかったのですが、琉球ガラス村のショップに行って実際の商品を見ていると、工業品・芸術品としてハイエンドなプロダクトもたくさんあって魅了されました。ものづくり産業が乏しいと言われている沖縄で、メーカーに入ってオリジナルなことをしたいと思って入社しました。

    Q.デジタルの分野をどのように業務に活用されたのですか?

    以前のシステムでは、『どの形のどの色の商品が売れているのか』ということが集計できていませんでした。売れているのはお皿なのかコースターなのか他の何かなのかといったことが数値化されていないまま、現場の感覚を役員に伝えることで商品のラインナップや生産量を決めていたのですが、デジタルのツールを導入したことで、売上傾向がデータやグラフで見える化され、役員や社員がそれらに基づく戦略を練ることができるようになりました。生産性が目に見えて変わりました。

    Q.今後の御社の展望を教えてください。

    弊社としては、観光の方と同じぐらい県内の方にも来ていただけるような場所にしていこうとリニューアルを進めました。観光客向けのお土産屋さんというよりは、ライフスタイルショップのようにしています。沖縄にいらした観光の方も『地元の人が本当に行く場所』に行きたいという想いがあります。そのような意味でも、業務のデジタル化によって生産コストを下げることに成功したことで、地元の方が日常で使える価格帯で商品を出せることにもつなげることができています。『沖縄の生活に溶け込んでいる商品』として観光客の方にも手に取ってもらえたらと思っております。

    商品管理部課長補佐 里佑馬さん

    Q.業務の中でどのようにデジタル化の恩恵を感じていらっしゃいますか?

    同じ会社の中でもやっていることが全く違う『作る側』と『売る側』の双方が数字を基とした共通認識を持って話すことができるようになったことは大きいです。デジタル化によって社内の体制づくりが強化できつつあるので、お客様に対する新しいサービスの提供に時間をかけることができるようになりました。

    Q.新入社員の育成面でのメリットもありましたか?

    在庫や売り上げの管理だけではなく、社内マニュアルのデジタル化や業務説明の動画の制作にも積極的に着手しています。新入社員の方が効率よく業務を覚えることができるので、本人の働きやすさにもつながっています。

    デジタルスキルで津堅島の魅力発信

    観光で頑張る人インタビュー
    曾祖父が建てた建物で運営する津堅島の民宿「神谷荘」の代表代行・神谷恭平さん。コロナ禍で逆境に立たされる中、デザインソフトや動画配信、SNSの活用に着手することで津堅島の魅力を広く発信し、集客力を高め、フォトウェディングなど新たな事業につなげています。

    Q.デザインソフトを始めようと思ったきっかけは何ですか?

    民宿のメニューなどの掲示物が昔ながらの手書きだったので『今の時代には合っていないな』と思い、最初は(ワープロソフトの)ワードで掲示物を作り始めました。ただそれも、もっと良いものが作れるはずだと思うようになりまして、補助金を活用しながらデザインソフトを導入させてもらい、民宿のSNSを案内するような掲示物を作ったのが最初です。

    Q.デザインや写真スキルの活用はどのような恩恵をもたらしましたか?

    掲示物のみならず、SNS発信をする上でもデザインは重要で、切っても切れない関係です。デザインや言葉選びに注力した結果、約1年半前にTikTokフォロワーは開始1カ月で3000人、現在では8000人以上に伸びています。さらに、ウェブサイトの写真や動画、文章にこだわってリニューアルしたところ、今では宿泊予約の3分の1程度はウェブサイト経由となっています。今後はSNSなどで活用してきた写真の技術を使って、津堅島でのフォトウエディングにも力を入れていきたいと思っています

    Q.デジタルツールは未経験だったとのことで、難しそうだという不安はありませんでしたか?

    楽しみながら学んでいきました。プロでお仕事としてやっている方には敵わないですが、ある程度のスキルはやれば習得できると思っています。ソフトを使い始めると『こんなに便利なものがあるんだな』と思わされました。デザインができるようになったので、民宿のオリジナルグッズを作っていきたいです。民宿のロゴが入ったTシャツなどをECサイトでも展開していきたいと考えています。

    Q.SNSの発信力が付いたことでどのように集客に結び付きましたか?

    津堅島は簡単に足を運べない離島なので、やはりネットやSNSを駆使して情報を発信していかない限りなかなか知ってもらえる機会がないかと思います。津堅島を音楽でアピールしようと、音楽ライブの映像配信を毎日していたら、昨年11月に音楽フェスの開催へと発展することができました。SNSでは民宿の名前を発信するというよりは、津堅島自体の良さを周知するように努めています。SNSがきっかけで来島される方は今年から特に増えており、初めてリアルの津堅島に来た方のリアクションは最高に良いです。