Vol 05

    世界を魅了する沖縄文化のさらなる発展

    独自の伝統、芸能、歴史文化が生み出す「オンリーワンの体験」を

    沖縄県は、世界遺産に登録された「琉球王国のグスク及び関連遺産群」や日本遺産に認定された『沖縄の伝統的な「琉球料理」と「泡盛」、そして「芸能」』、ユネスコ無形文化遺産に登録された組踊、同じくユネスコの無形文化遺産への登録を目指している、沖縄を発祥の地とする空手の発信、独自の技法を発展受け継いできた伝統工芸品などを活用した魅力ある観光地づくりを促進しております。
    これらは「沖縄でしか味わうことのできない(オンリーワンな)体験」として、国内外の旅行者を惹きつけています。
    今回の「沖縄観光みらい新聞」では、沖縄の人々が連綿と紡いできた琉球・沖縄の文化を観光的な魅力からも紐解くと共に、文化継承に励む人々の思いにも迫っていきます。

    沖縄のソフトパワーで観光客に感動を

    沖縄県が令和4年度に策定した「第6次沖縄県観光振興基本計画」では、琉球舞踊や空手、エイサーなどを「世界に誇る優れた文化遺産」と位置付けており、これら文化資源の多くを観光産業につなげる必要があることを明記しています。

    さらに、かつて琉球王国としての歴史を歩んできたことから、沖縄県では他府県と比較しても類を見ない個性ある文化が継承されており、独自の文化、芸能、伝統行事、工芸品が「沖縄ならではのコンテンツ」として、観光客を魅了する大きな力となっています。

    このような沖縄の文化は、世界的にも大切に守り継いでいくべきものとしても評価されています。「琉球王国のグスク及び関連遺産群」の世界遺産登録(2000年)に始まり、300年以上にわたって受け継がれてきた「組踊」のユネスコ無形文化遺産登録(2010年)、来訪神のひとつとして集落を練り歩く「宮古島のパーントゥ」のユネスコ無形文化遺産登録(2018年)のように、次々と“世界の宝”として登録されています。首里城は沖縄の文化の象徴的なもので、現在は「見せる復興」をテーマに再建に取り組んでおり、沖縄固有の歴史や文化の奥深さに目を向ける一つの契機となっています。

    沖縄発祥の空手も、ユネスコ無形文化遺産の登録を目指しています。世界中に1億人以上もの愛好家がいるとされており、2020年東京オリンピックの競技種目にも採用されました。沖縄空手は、護身術であるとともに琉球王国の士族のたしなみとして継承され、「空手に先手なし」という不戦の理念や礼節を重んじる心もまた、沖縄の歴史が育んだものです。沖縄県としては空手の真髄を学ぶ拠点として「沖縄空手会館」を設置し「空手発祥の地・沖縄」を国内外に発信し続けています。

    沖縄の食文化も、独自の歴史や風土が生み出した賜物です。沖縄そば、ゴーヤーチャンプルー、イナムドゥチ。長い歴史や諸外国との交流の中で育まれてきた伝統的な「琉球料理」は枚挙に暇がないほどの多彩さで、医食同源の考え方と共に今日まで受け継がれています。米軍統治下を経て生活に定着した、タコライスやポーク玉子といった比較的新しい「沖縄料理」も、観光客の食体験を満足させています。

    沖縄県の亜熱帯・海洋性の自然環境や、歴史的風土と伝統に根ざした豊かな文化は、人々を魅了するソフトパワーです。個性的で幅広い沖縄のソフトパワーは、国内外の人が求めるさまざまなニーズに応えることのできる、比較優位とも言える特性です。

    独自の伝統文化の継承と共に、多様性と普遍性が共存する新たな文化芸術が創造され、文化の多様な担い手が活躍することで、これからもますます世界に誇る沖縄文化を発展させていくことができます。沖縄文化は、県民の誇りや心の拠り所になるだけではなく、付加価値の高い良質な観光体験やサービスを提供していく力になることで、国内外の人々の感動や笑顔も生み出していくのです。

    観光で頑張る人インタビュー
    300年以上も、沖縄を代表する焼き物「壺屋焼」の生産地として、その歴史を現代にまで紡ぐ那覇市壺屋。この場所で創業約60年となる窯元「育陶園」の高江洲若菜社長と、砂川良美工房長に、壺屋焼の魅力や観光産業との相乗効果などをお伺いしました。

    高江洲社長「伝統を大切にしながら時代に合わせた作品作りを」

    Q.壺屋焼のお仕事の魅力を教えてください

    壺屋で焼き物を作り続けるということ自体が魅力です。300年以上焼き物を作り続けている土地でものづくりができることが特別なことだと思っています。観光の方にも「ここに行けば素敵な焼き物を見ることができるよ」と思ってもらえるような場所になっていけたら嬉しいです。

    Q.壺屋焼の文化自体の魅力をどのあたりに感じていますか?

    最初から最後まで全て手仕事で作っている焼き物は全国的にも少ないです。人の手で表現できる範囲内で、なおかつ一つ一つが均一でないところに面白みがあります。その上で、機会を使わなくとも職人の鍛錬の積み重ねで一定数の生産を可能にしているので、手仕事で作り上げた製品ながら、日常で使って頂けるような価格帯で提供できているのは、文化を人々の生活の中に残しているという点でも自信となっています。

    Q.今後、どのような壺屋焼の未来を展望していますか?

    昔と変わらないものをそのままずっと作り続けていくというよりは、壺屋焼の本質を残しつつ、その時代に合わせたものを作っていくことが大事だと考えています。文化をチャンプルーして新しいものを取り入れて発展してきたのが沖縄らしさでもあります。『伝統』自体もずっと同じだったわけではなく、これまでもアップデートされてきたはずです。例えば、かつては壺や甕など、水などを貯蔵するものが主流でしたが、水道整備が進んでからは、壺や甕に取って代わって、生活の中で使う器がよく作られるようになりました。駐留米軍のニーズに合わせてコーヒーカップも作られるようになりました。みなさんに必要とされるものを作ってきたからこそ、壺屋焼が現在まで残ってきたのだと思います。伝統を大切にしながらも、時代をしっかり感じ取っていくことを忘れずにいたいです。

    Q.壺屋にも年々国内外からの観光客が増えてきていますね。

    これからの観光と手仕事は切っても切れない関係だと感じています。観光の方に作品を買ってもらうことも多いので、他の焼き物の産地と比べると恵まれた環境にあると思います。沖縄の観光資源の一つとして私たちの手仕事の魅力を伝えていきながら、観光客の方々にも「壺屋でしか見ることができないもの」として壺屋にお越し頂いて、壺屋焼の価値を感じてもらって、作品を買って頂くといういい流れを作っていきたいです。壺屋焼だけでなく、沖縄でものづくりをしているみなさんで盛り上がれたらと思います。

    砂川工房長「壺屋焼を通して沖縄を知ってもらうきっかけに」

    Q.壺屋焼の職人を目指したきっかけを教えてください。

    小さい頃から図工や画が好きで、得意だったので、何かを作る仕事がしたいと思っていました。そんな中、自分がろくろを回している夢を見て「これだ」と運命的に感じました。壺屋独特の空気感に気持ちごと導かれた気がしていました。

    Q.約20年間、壺屋焼職人をされていますが、作り手としての魅力は何ですか。

    やはり作っていてとても楽しいです。今まで作れなかった形や、今までできなかった技法が一つ一つできるようになるという達成感があります。(線彫りの)線の流れを少し変えてみたり、他の職人の掘り方を参考にしたりして、自然な美しさになるよう工夫しています。それがきれいに焼き上がって、お客さんに買って使ってもらえるのは嬉しいです。

    Q.壺屋焼のどこに一番惹かれていますか?

    伝統的な形の美しさです。職人になる前は、自分のオリジナリティを前面に出した奇抜なスタイルに挑戦しようとしていました。「作りたいものを作りたい」という感じで。ただ、工房に入って伝統的な器の形の美しさを知りました。今ではこの「伝統の形」が最も美しいと思っています。これは、実際に働いて作ってみたことで分かるようになった壺屋焼の魅力です。

    Q.壺屋焼が好きで沖縄に足を運ぶ方もいらっしゃいます。

    観光で壺屋にいらっしゃる方は「こんなにたくさん工房があったんだ」と喜んでくれます。工房の様子を見ると、その技術を「魔法みたい」とも言ってくださって、壺屋焼の作り手の技術の高さを知ってもらえていると思います。焼き物文化は全国各地にありますが、その中でも沖縄の焼き物に興味を持っていただけるのは嬉しいです。焼き物を通して観光の方が地域の人と触れ合うことで、沖縄の人々の温かな雰囲気や暮らしを感じてもらうきっかけになっていると思います。

    観光で頑張る人インタビュー
     沖縄の工芸品の販売などを通して沖縄の文化的価値を創造・発信するゆいまーる沖縄株式会社(南風原町)は、自社店舗のみならず、地域マーケティングを手掛けるネイティブ株式会社(本社・東京都)と連携して、那覇空港ターミナルビル内に工芸やクラフト商品を販売する店舗「Dear Okinawa,(ディア沖縄)」を展開しています。工芸作品とお客さんの双方をつなぐ役目としての喜びや今後のビジョンを、同社の鈴木修司社長と小谷幸代さんにお伺いしました。

    鈴木社長「工芸は文化のかたまり」

    Q. Dear Okinawa,としてどのような想いで商品を展開していますか。

    沖縄旅行のリピーターが増え、沖縄を訪れる人々の多様化している旅行のニーズを、さまざまな形で満たすことができるように意識しています。そのお店でしか買えないような素敵な商品がたくさんある中で、一度の旅行であちこち全部回ることは難しいかと思います。ですので、空港に店舗を出して、そこでさまざまな作り手さんの商品を展開することで、商品を手に取って購入していただく機会が作れればと思っています。与那国島の民具や、石垣島の焼き物など、離島の商品も意識して取り扱っています。

    Q.職人さんとお客様の間にいる立場として心掛けていることは何ですか?

    最近は作り手さんもSNSやオンラインショップで直接販売できる環境が整っている一方で、それでも、「作る」ことは得意ですが「発信する」「売る」ということについては不得意という方もまだまだ多いです。そういった方のために「発信して売る」ということが私たちの役割です。

    Q.沖縄の工芸品は、観光にどのように寄与していけるとお考えですか。

    工芸は、歴史や自然、職人の手技が凝縮された『文化のかたまり』とも言えるものだと思っています。沖縄を複数回訪れるうちに、文化的なものをより深い意味で体験したいという方も多いです。焼き物が好きになった人は、県内の工房を巡る方もいらっしゃいますし、さらには沖縄に移住して焼き物の職人さんになる方もいらっしゃいます。工芸の分野は経済規模で言えば小さい方かもしれませんが、沖縄の文化を深めているという点では大きく貢献しています。

    Q.今後の展望について教えてください。

    工芸と旅行をミックスさせた取り組みをしていきたいと思っています。多くの観光の方にまだ知られていない工芸の領域が多くあるので、その魅力に入り込んでいくようなツアーなどを企画して、観光の方と職人さんや工房をつないでいきたいです。「琉球手しごと紀行―工芸をめぐる旅―」という旅行商品のプロデュースも行っております

    小谷さん「ストーリーを通して付加価値を」

    Q.沖縄の工芸品の魅力を伝えていく上で意識されていることは何ですか。

    作り手さんとお客様のパイプ役として間にいる立場として、作品に対する想いや素材へのこだわりなど、作り手さんに直接聞かなければ分からなかったような情報やストーリーもお客様に伝えることで、より付加価値を感じて頂きたいと思っております。これまで知らなかったような商品を知ってもらった時には、作り手さんとお客様の双方をつなげることができてうれしく思っています。

    Q.観光の方で(南風原町の)自社店舗にお越しの方も多くいらっしゃいますね。

    観光の方で当店へお越しになる方には、沖縄の工芸に対する知識がもともとあって、こだわりを持って商品をお求めになる方も多いです。こだわりの“好きなもの”をご自身のライフスタイルの中で使いたいという人にも、沖縄の工芸品が選ばれています。

    観光で頑張る人インタビュー
     琉球王朝時代の高貴なおもてなしを蘇らせることを理念に、少人数・小空間で上質な琉球芸能を提供する「一般社団法人琉球伝統芸能デザイン研究室」。琉球古典音楽の演奏と舞踊を1人ずつ、計2人で上演するパフォーマンスが、2020年度のグッドデザイン賞を受賞しました。代表理事で沖縄県立芸術大学教授の山内昌也さんと、事務局長の平賀和明さんにお話をお伺いしました。

    山内代表理事「沖縄の“音”で沖縄にいることを実感」

    Q.沖縄の音楽が観光に果たせる役割としてどのようなものがあるとお考えですか。

    三線の音色に、ウチナーンチュのアイデンティティが含まれており、メロディは沖縄特有の琉球音階でできています。そんな“沖縄の音”が沖縄の地にさまざまな形であふれることで、観光客のみなさんが「沖縄にいるんだ」ということを五感で実感できます。ゆいレールの駅の発着音に沖縄の音楽が採用されているのもその一つです。また、例えば那覇の市場では賑やかで活気ある民謡が聴こえ、首里で古典音楽が聴こえてくることで、地域の違いを知って歴史を紐解いてみるきっかけにつながるのではないかとも思います。

    Q.『質の高い観光』に対して沖縄の音楽はどのように寄与できますか。

    琉球の宮廷音楽は明治12年の廃藩置県まで、首里城の中でしか演奏されていませんでした。首里で宮廷音楽を演奏して「本物の古典音楽を感じることのできる場所」として位置付けることで、より価値の高い観光を提供できると思います。さらに、沖縄の音楽を学ぶ県立芸大の学生がそのような場で宮廷音楽を演奏することができれば、普段学んでいることもステータスを持って発揮できます。

    Q.沖縄の音楽がきっかけで沖縄観光のリピーターになる方もいらっしゃいますか。

    初めて沖縄観光に訪れた方がその日から三線の教室に通い始めるというのはなかなか現実的ではありませんが、三線屋さんで体験的に手ほどきを受けて、興味が湧いてきたらまたそのお店に通う方もいらっしゃいます。それからさらに上達を目指したい場合は、教室やカルチャースクールで本格的な指導を受けたり、コンクールにチャレンジしたりするという方もいらっしゃいます

    Q.「本物の文化」を守り育てていく立場で、どのようなことに取り組んでいますか。

    「本物」が何かと考えた時に、昔から続くものを単純に復元するだけでは今の人たちに受け入れてもらえるかというと未知数だと思います。そこで、古典音楽の在り方を現在に合わせて再デザイン(リデザイン)していくことに私たちは取り組んでいます。例えば、音楽そのものは伝統的でありながら、それを観る空間を、これまで演奏されてこなかった場所にすることで、伝統と革新を組み合わせて琉球の伝統をリノベーションしています

    平賀事務局長「少人数・小空間での上質な芸能提供、富裕層にフィット」

    Q.「伝統と革新の融合」という視点で今後どのようなメニューを構想していますか。

    一例としては、ラグジュアリーホテルのプールヴィラで、そのお客様だけのために演奏するという構想があります。エステで演奏するということにも挑戦してみたいです。歴史を遡ると、琉球王国時代に国王が体調を崩すと、三線の奏者が付いたようです。音楽療法での治療行為でした。そのヒーリング効果をエステの場に応用できればと考えています

    Q. 富裕層向けのコンテンツも需要が高まっていますが「本物の提供」というテーマとは親和性がありそうです。

    ハイブランドを意識した少人数・小空間での上質な芸能提供は、本物を求める富裕層の方々には非常にフィットしており、私たちとしては想像以上の手ごたえを感じています。少人数である点はコロナ禍でも感染対策の面でも安心安全を確保できました。人材育成も含めて今後も事業に取り組んでいきたいと考えています